創業者の株式売却が需給に与える影響を整理する

note創業者の売却から考える、富裕層ミニマム税強化と大株主リスク

目次

はじめに:創業者の株式売却が注目されやすい年になっている

2026年に入り、創業者や創業家、大株主個人による株式売却・保有比率低下がいくつか確認されています。

特に注目を集めたのが、note(5243)の創業者である加藤貞顕氏による株式売却です。

noteの公式発表では、加藤氏が2026年4月15日に55万株を市場取引で売却したことが公表されています。会社側はこの売却について、将来的なプライム市場移行を見据えた流動性向上、流通株式比率の向上が目的であると説明しています。また、売却開始日や売却価格、配分先は証券会社に一任されており、加藤氏は売却実行日から2年間、note普通株式を売却しない旨も通知しているとされています。
つまり、少なくとも公式説明としては、「税制対策のために売った」とはされていません。ここは大前提として押さえておくべきです。

一方で、市場参加者の視点では、2026年という年は少し特殊です。
なぜなら、2027年分の所得から、いわゆる「富裕層ミニマム税」が強化される予定だからです。

この記事では、noteの公式見解を否定するものではなく、あくまで市場の見方として、
「創業者・創業家の株式売却が2026年のひとつの需給テーマになる可能性」
を整理していきます。


まず確認:富裕層ミニマム税とは何か

富裕層ミニマム税は、ものすごく簡単に言うと、
非常に大きな所得がある人について、一定以上の所得税負担を求める制度
です。

現行制度では、基準所得金額が3.3億円を超える場合に、一定の計算式で追加課税が発生する仕組みになっています。国税庁の資料では、追加課税額は「基準所得金額から3.3億円を控除した金額に22.5%を掛けた金額」から「基準所得税額」を差し引いて計算する形とされています。

そして、令和8年度税制改正では、この制度がさらに強化されます。
具体的には、控除額が3.3億円から1.65億円に引き下げられ、税率は22.5%から30%へ引き上げられる内容です。

ここで重要なのは、2027年分の所得から強化されるという点です。
大和総研の解説でも、現行制度は2025年分から適用され、改正後の強化版は2027年分から適用されると整理されています。

かなり単純化して言うと、上場株式の譲渡益が大きい人にとっては、
2026年中に売るのか、2027年以降に売るのかで、税負担が変わる可能性がある
ということです。

もちろん、実際の税額は他の所得、損益通算、過去の取得価格、保有形態、法人・個人の違いなどによって変わります。
ただ、投資家目線では、2026年中に大株主個人が保有株を一部売却するインセンティブが働きやすい年、という見方は自然に出てきます。


2026年に確認された主な「創業者系・創業家系」の株式売却、保有比率低下

以下は、2026年に確認できる公開情報ベースで、創業者・創業家・大株主個人による株式売却や保有比率低下が確認された主な事例です。

網羅リストではありません。
また、ここに掲載したからといって、税制対策が目的だったと断定するものでもありません。

銘柄人物・属性2026年の主な動き見方
note(5243)加藤貞顕氏、創業者・CEO2026年4月15日に55万株を市場取引で売却。公式発表では、売却後の保有比率は26.31%。会社側は、将来のプライム市場移行を見据えた流動性向上・流通株式比率向上が目的と説明。税制対策と断定すべきではないが、2026年の大株主売却テーマとして注目された事例。
ファーストリテイリング(9983)柳井正氏・共同保有者2026年1月、共同保有ベースで保有比率が41.28%から40.28%へ低下。さらに2026年4月にも40.28%から39.25%へ低下。時価総額が非常に大きいため、1%程度の低下でも市場金額としてはかなり大きい。理由は断定できないが、創業家保有株の売却として注目度は高い。
サイゼリヤ(7581)正垣泰彦氏、創業者2026年4月15日を義務発生日として、保有比率が27.17%から26.17%へ低下。外食大手の創業者による保有比率低下。1%の低下でも、流動株比率や需給面では一定の意味を持つ。
TeamSpirit(4397)荻島浩司氏、創業者荻島氏から一部売却意向を受け、会社がToSTNeT-3で自己株式取得を実施。取得株数は124万4,800株、発行済株式総数の7.55%。会社側が市場価格への影響や既存株主への影響を避ける目的で自己株取得を行った事例。大株主売却を会社が吸収した形で、需給面では比較的わかりやすいケース。
ツクルバ(2978)中村真広氏、創業者2026年3月16日を義務発生日として、保有比率が14.36%から7.20%へ低下。創業者保有株の大きな比率低下として確認される事例。相対取引や事業提携など個別事情があるため、単純な市場売却とは分けて見る必要がある。
PKSHA Technology(3993)山田尚史氏、創業者2026年3月4日を義務発生日として、保有比率が8.47%から7.45%へ低下。AI関連銘柄として注目度の高い企業。創業者保有株の一部売却は、テーマ株ほど需給材料として見られやすい。
イルグルム(3690)岩田進氏、創業者2026年2月24日を義務発生日として、保有比率が42.18%から41.18%へ低下。保有比率自体は依然として高い。創業者の保有比率が高い中小型株では、1%の変化でも需給面で意識されやすい。
Colec Holdings(6578)栗林憲介氏、創業者2026年2月13日を義務発生日として、保有比率が37.03%へ低下。創業者・安定株主としての保有とされているが、保有比率低下が確認されている。小型株では出来高との比較が重要。
ラクスル(4384)松本恭攝氏、創業者2026年3月、公開買付け・非公開化関連の文脈で変更報告書が提出。会社側も、公開買付け決済後に松本氏が主要株主でなくなる見込みを公表。通常の市場売却とは性質が異なるため、参考事例。税制や需給テーマというより、TOB・非公開化の一連の取引として見るべき。

このリストをどう見るべきか

ここで大事なのは、
「創業者が売った=悪材料」ではない
ということです。

創業者や創業家が株式を売る理由は、税制だけではありません。

たとえば、以下のような理由も十分に考えられます。

  • 流通株式比率を高めるため
  • プライム市場移行を見据えた対応
  • 資産分散
  • 相続・事業承継
  • 寄付や財団設立
  • 新規事業への投資資金
  • 会社側の自己株式取得に応じた売却
  • TOB、MBO、資本提携に伴う売却
  • 株式処分信託などを使った計画的な売却

noteの事例でも、会社はあくまで流動性向上と流通株式比率の改善を目的として説明しています。
そのため、外部の投資家が「本当は税制対策だ」と決めつけるのは避けるべきです。

ただし、投資テーマとして見るなら話は少し別です。

2027年から富裕層ミニマム税が強化されることは、創業者や大株主個人にとって無視しにくい制度変更です。
そのため市場では、
「2026年中に一部売却しておきたい大株主が増えるのではないか」
という見方が出やすくなります。

これは、企業価値そのものの話ではなく、需給の話です。

業績が良くても、成長性が高くても、短期的に大株主の売りが出れば株価は重くなることがあります。
特に中小型株やグロース株では、通常の出来高に対して大株主の売却株数が大きくなりやすいため、需給面のインパクトが出やすくなります。


どんな銘柄で「創業者売り」が意識されやすいのか

次のような条件が重なる銘柄では、2026年中は創業者・創業家の売却が意識されやすいかもしれません。

1. 創業者・創業家の保有比率が高い

まず見るべきは、創業者や創業家、資産管理会社の保有比率です。

目安としては、創業者・創業家側で20%以上を保有している会社は、売却が出た場合に需給材料として意識されやすいです。
30%、40%を超えている場合は、1%売るだけでも市場金額としてはかなり大きくなることがあります。

2. 上場から時間が経っていて、含み益が大きい

創業者がかなり低い取得価格で株式を持っている場合、売却時には大きな譲渡益が出やすくなります。

上場直後のロックアップ解除売りもありますが、今回の税制テーマで注目されやすいのは、むしろ
長く上場していて、創業者の含み益が大きく積み上がっている会社
です。

3. 出来高が少ない、または流通株式比率が低い

大型株であれば、大株主が一部売っても市場が吸収できることがあります。
一方で、日々の出来高が少ない中小型株では、数億円〜数十億円規模の売却でも株価が重くなりやすいです。

そのため、見るべきなのは単純な売却金額だけではありません。

  • 売却株数
  • 直近の出来高
  • 売買代金
  • 流通株式比率
  • 信用買い残
  • 株価が直近で大きく上がっているか

このあたりをセットで確認すると、需給リスクが見えやすくなります。

4. 2026年中にすでに少しずつ売っている

一度に大きく売るケースもありますが、少しずつ売却が続くケースもあります。

大量保有報告書の変更報告書で、
「保有割合が1%以上減少」
という開示が複数回出ている場合は、継続的な売却が行われている可能性があります。


読者が自分で探す方法:バフェットコード、四季報、EDINETの見方

このテーマは該当銘柄が多くなりやすいため、すべてを記事内でリスト化するのは現実的ではありません。
読者自身が探すなら、以下のような方法が有効です。

バフェットコードで探す場合

バフェットコードでは、企業ごとの大株主や大量保有報告書を確認できます。

見るポイントは以下です。

  1. 気になる銘柄を開く
  2. 大株主欄を見る
  3. 個人名、創業者名、社長・会長名、創業家の資産管理会社が上位にあるか確認する
  4. 大量保有報告書の変化を見る
  5. 「保有割合が1%以上減少」しているか確認する

特に見たいキーワードは以下です。

  • 発行会社の創業者
  • 安定株主として保有
  • 株券等保有割合が1%以上減少
  • 市場内処分
  • 市場外処分
  • 株式処分信託
  • 自己株式立会外買付取引
  • ToSTNeT-3

四季報で探す場合

四季報では、まず大株主欄を見ます。

注目したいのは、以下のような表記です。

  • 創業者本人
  • 創業家
  • 代表取締役
  • 会長
  • 親族名義
  • 資産管理会社
  • 一般財団法人、公益財団法人
  • 持株会社

そのうえで、過去の四季報と比較して、保有比率が少しずつ下がっていないかを見ます。

特に、
創業者系の保有比率が高く、かつ流通株式比率が低い会社
は、需給面で売却が意識されやすくなります。

EDINETで探す場合

EDINETで直接探す場合は、以下のような検索が使えます。

  • 提出書類:変更報告書
  • キーワード:創業者
  • キーワード:1%以上減少
  • キーワード:市場内処分
  • キーワード:市場外処分
  • キーワード:株式処分信託

大量保有報告書は少し読みづらいですが、慣れるとかなり有用です。

特に見るべき欄は以下です。

  • 提出者
  • 保有目的
  • 株券等保有割合
  • 直前の報告書に記載された株券等保有割合
  • 当該株券等に関する担保契約等重要な契約
  • 最近60日間の取得または処分の状況

ここを見ると、単なる名義変更なのか、実際に市場で売っているのか、相対取引なのかがある程度わかります。


注意点:税制テーマだけで売買判断しない

このテーマで最も避けたいのは、
「創業者が持っているから危ない」
という雑な見方です。

創業者が大株主であることは、むしろ長期的にはプラスに働くこともあります。
経営者と株主の利害が一致しやすく、長期目線の経営が期待できるからです。

また、創業者が一部売却したとしても、それが直ちに会社への信頼低下を意味するわけではありません。

大切なのは、次のように分けて考えることです。

  • 会社の業績や成長性はどうか
  • 売却理由は公式にどう説明されているか
  • 売却方法は市場内か、市場外か
  • 売却株数は出来高に対して大きいか
  • 売却後も創業者は大株主として残るのか
  • 追加売却を制限するロックアップや表明はあるか
  • その銘柄の株価はすでに過熱していないか

noteの事例で言えば、加藤氏は売却後も大株主であり、会社側も2年間の追加売却を行わない旨の通知を受けたと公表しています。
そのため、「創業者が売ったから危ない」と単純に見るのではなく、公式説明と需給要因を分けて読むことが重要です。


まとめ:2026年は「創業者売り」を需給テーマとして見る年

2026年は、創業者・創業家の株式売却が市場テーマになりやすい年だと考えています。

理由はシンプルです。

2027年から富裕層ミニマム税が強化されるため、大きな含み益を持つ個人株主にとって、2026年中に一部売却するインセンティブが生まれやすいからです。

ただし、これは
「創業者が売る銘柄は危ない」
という話ではありません。

正しくは、
「創業者や創業家の保有比率が高い銘柄では、2026年中に大株主売却が需給材料として意識されやすい」
という話です。

企業価値を見る投資と、短期的な需給を見る投資は分けて考える必要があります。

2026年は、業績やバリュエーションだけでなく、
大株主構成、流通株式比率、大量保有報告書の変化
にもいつも以上に注意しておきたい年になりそうです。


免責事項

本記事は、公開情報をもとにした一般的な情報提供を目的としたものであり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。
税制については簡略化して説明しているため、実際の税務判断は国税庁資料、財務省資料、税理士などの専門家に確認してください。
創業者・創業家による株式売却についても、個別の売却理由を税制対策と断定するものではありません。

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